春に笑って、君宿り。

にいっと口角を上げて無邪気に笑う。

君から逃げる俺。

今までのことを思い出して、フッと笑う。


「そうかもね」


……寸分の狂いなく俺を打ち抜いたんだから
サソリというより、むしろ。


「……」


学校で花暖先輩を見つけたとき
君は何故かトーガ先輩にフラれている真っ最中で。

まだ君をよく知らなかった。
ただタオルを返そうと思っただけだった。
本当に、それだけだった。


初めて会ったあの日、子犬が無事に飼い主の元へ戻って安心したあの日。
桜が満開の中、一際明るく笑ったのが強く印象に残っていて。


……泣いて欲しくないと思った。
タオルで乱暴に拭いておいて何言ってるんだって感じだけど、でも本当。


春。
桜舞うあの季節に。

春に笑った君に、とっくに恋をしていた。


はじめはずっとつきまとわれて、本当に迷惑でしかなかった。
いつの間にかその迷惑を迷惑と思わなくなった。

君が修学旅行に行ってしまってようやっと気付いて。
君の周りにつまらない嫉妬だってして。
君の行動一つ一つに対して何度も頭を抱えた。