春に笑って、君宿り。

自分の頭上で、そんな言葉が行き来している。
私はというと、もうすっかり雪杜くんにしがみついてしまっていた。

顔だって上げられない。
雪杜くんの腕につかまる手も離せない。

もう離れたくない。


「……ね、花暖先輩」

「っ」


やだ。
そんなふうに呼ばないで。

これ以上好きになったら、どうにかなっちゃうから。
苦しくて耐えられないから。


「カノ」


後ろから環くんの声。
そっと声のした方を見れば、環くんは困ったように笑っていて。


「頑張れよ」

「っ環く……」

「奈冷、あと頼んだぜー」

「はーい」


少し抜けたような返事とは裏腹に
私を抱きしめる腕には力が入った。

ひらひらと手を振って背を向けた環くんに、何度も心の中でありがとうと叫んで
もう一度雪杜くんの胸に、ぐっと顔を押しつけた。

頑張るしかない。

あんなに「頑張れ」と言われてしまったら、
もうどうしたって頑張るしかない。