春に笑って、君宿り。

***

「うわあぁぁ~ん……!!」


体中に電気が走ったみたいな衝撃。
雪杜くんに好きな人がいる。

それは多分、私じゃない。


「……うっ、うわあぁ~ん……!!!!」


こんなに声を出して泣いたのは子供の時以来かもしれない。


「……で、なんで俺ん家なんだよ」

「だってえええ……!!!!」


家だと家族に心配かけちゃうし……
今は誰かに傍にいて欲しかったし……。


「……っとに、お前は昔から泣きたくなるとここに来るよな」


仕方ないなと付け加えながら、眉を下げて優しく微笑む環くん。

手には見慣れた長い筆。
顔や腕、作業着にはいろんな色の絵の具が飛び散っている。

環くんの家にはそれはそれは大きなアトリエがあって、
たくさんの作品が並んでいる。

何度か展示会もしている中で、環くんが気に入らないと言って世に出ていない絵だってある。

嗅ぎなれた絵の具のにおいが今はなんだかほっとする。

小さい頃から何かあると逃げるようにここに来ていたから。

ここに来たら、作品と向き合っている一生懸命な背中があるから。

それに、何度も勇気をもらえていたから。