「な?」と俺を見て微笑むタマキ先輩。
少し下に視線を落とすと、花暖先輩が物欲しそうな顔をして俺を見上げてきていた。


「……」


どういうつもりなんだ、この人は。

ずっと機嫌悪くしてたの、そっちでしょ?

目も合わせようとしないし、なんかずっとトーガ先輩と一緒に話してるし。
別に俺の力なんてなくても幼なじみのタマキ先輩が助けてくれるんでしょ。

なんで、俺にそんな顔を向けるんだよ。

本ッッッ当、ずるい。


「……そーいうことなんで、安心して帰って下さいね、トーガ先輩」


先ほど勇気が出なくて飲み込んだ言葉を、トーガ先輩にようやっとぶつけた。


「安心できねー……」

「は? 少なくともクズに任せるよりよっぽどあたしらは安心だわ」

「どういう意味だ花壱」


はあ、かっこわるい。
先輩達に背中を押されてやっと、この人を俺の元に引き寄せられるだなんて。

あと一歩の、勇気が出せたらいいのに。


「カノ、奈冷、またな」

「カノちゃん、ばいばい!! 雪杜くんも今日はありがとう~!!」

「みんな今日はありがとう、また明日ね!!」


そうやって先輩達は帰って行ってしまった。


「……」

「……」


ずっと下を向いてる花暖先輩。
ねえ、どうして今日はそんなに怒ってるの。
いい加減機嫌直してよ。


「……先輩」


あと一歩の、勇気を。



「まだ時間……いいです、か」