春に笑って、君宿り。

先輩は優しいから
誰にでも親切で誰にでも笑って
誰にでも距離が近くて
きっと誰にでも「好き」と言うんだろうなと。


「うーん……」


俺の隣に座っていた花壱先輩が唸る。
ちらっと見やれば、
花暖先輩に影響されたのか、こちらも数学の問題と向き合っていた。

……教科書を音読するんじゃなくて問題を解いているあたり、花暖先輩よりは勉強の仕方を分かっているみたいだ。

ノートに書かれた回答は途中で止まっている。
あと一歩。もう少しで解けるというところまできていた。


「花壱先輩、多分ここの公式のこと忘れてると思いますよ」


そっと教科書内に書いてある公式のうちの1つを指差す。
知らない香水の香りが鼻をつんと刺激した。

花暖先輩以外に、感じたことのない女子の香りに少し違和感を抱く。

まあ、別に不快ではないわけだし、失礼のないように表情は変えない。


「え~、どれどれ……雪杜はあたしに何を伝えようとしてんだ……?」

「いや、だから今解いてる所が」

「……?」


いや、そんな虚無な顔をされても。
あなたがここまで自分で解いてきたわけでしょ?
それとも、公式の当てはめ方がわからないとか?


「雪杜よ」

「はい」

「これがメロンパンだとするだろ?」

「すみませんもう一度いいですか」