春に笑って、君宿り。

***

「カノちゃん、すごい……」

「あのはなのが一生懸命勉強してる……」


「いったい何が」と2人の声がそろう。
それに対して何も反応することなく、謎のハチマキを巻いて教科書を音読している花暖先輩。

教科書を読むのはいいことだけど、数学なら問題を解かないと。

そう思うけど、先輩が一生懸命頑張っている気持ちを否定するようなことをしたくなくて
俺も自分の持っている参考書に目を落とした。


「奈冷」

「はい?」

頸神経叢(けいしんけいそう)ってさー……」

「ああ、横隔膜(おうかくまく)ですか?」

「あ、そうだー、それそれ」

「タマキ先輩、よくそこ忘れますからね」


「助かるー」と言って、鼻歌を歌いながらまた問題を解き始めた。

間違えたところ、わからなかったところに付箋を貼っている。
そうやって何度も弱点を克服しようとするのがタマキ先輩の勉強方法なのだとか。


「……」


視線を感じて、そちらを見る。


「……え、なに」


その視線の正体は、ギンと目を見開いた花暖先輩。

……だから、何に怒ってるの?