春に笑って、君宿り。

『信濃くん、に、話そうって言われて……』

「……トーガ先輩に?」

『私のこと、好きって、また伝えてくれて……っ、それで……』


心地の良かったはずの音が、少しずつ大きくなっていく。
どうか電話の向こうの君に聞こえていませんように。


『だ、抱きしめられて、キス……』

「は!?」


え、ちょ。
何やってんのトーガ先輩……!?


『キスされそうになって、雪杜くんから電話が来て、それで』

「……逃げてきたんだ?」

『うん……また、逃げちゃった……』


キス、してないんだ。
あぶなー……。

ん、というか、今なんて……。


「『また』?」

『遊園地の、お化け屋敷の時も、信濃くんとお化けたちから逃げたの……』

「……」


手が冷たくて
よっぽど怖かったんだろうなと思ったのを覚えてる。

あの日何もできなかった自分のふがいなさと
今回も俺を逃げ道に選択してくれたことに若干の優越感を感じた。

いつだって迷わず、俺のところに飛んでくるんだ。