春に笑って、君宿り。


向こうから息を切らして走ってくる女の人が見えた。


「エリザベス!!!」


エリザベス?

私と男の子は顔を合わせて、また女の人の方へ視線を戻した。


「ああ、よかった!! あなたたちが見つけてくれたのね……!?」

「いや俺は別に「川で溺れてた所をこの人が助けてくれてたんです」


目をつり上げて「ちょっと!!」と声を荒げる男の子は無視して、子犬を女の人へお渡しする。


「ふふ、エリザベスちゃんっていうんだ。今度は飼い主さんから離れないようにね」

「本当にありがとうございました!!」


深々と頭を下げて、女の人とエリザベスちゃんはお家へ戻っていった。
女の人が見えなくなるまで、私たちはそこでずっと見つめていた。


「……エリザベス」


ぽつりと呟かれる子犬の名前。


「エリザベス」


まさかのだったよね。
そんな気持ちを込めて私も呟く。


「……ぷ」

「はは、っ」


二人同時に噴き出した。

緊張感が一気にほぐれたというか、うん、なんだかそんな感じ。


クールで、無口なのかなって思っていたけど。

なんだ、そんな風に笑うんだね。

そんな、くしゃっとした笑顔向けられたら、きっと女の子たちはみんな君に惚れちゃうんだろうな。
真面目そうな顔していないで、もっとそんな風に笑ったらいいのに。


春に、満開の青い桜が咲いたみたいに。


……ね、また会えるかな。