春に笑って、君宿り。

「熱……」


一気に頬張りすぎた。
舌、火傷したかも。


「……あ、もう宿泊先に戻った頃か」


時計を見て、不意にそんなことを口に出した。

いつだって1人だったし、これからも1人でよかったんだ。
それが楽だったし一番被害が少なかったから。

誰に何を言われたって、今となってはもう別によかった。


どうせ、俺が何を言ったところで何も信じない連中。
いつだって変な噂を流すのは決まってそんな奴らだから。

言い返すだけ、違うと否定するだけ時間と労力の無駄。

それに気付くのにさほど時間はかからなかった。


だからこれからだって1人でよかったのに。


――「クゥン……」


川の真ん中。
足場の悪い岩の上に、全身を濡らした子犬が鳴いていた。

荷物を川岸に置いて、変に驚かせないようにゆっくりと近づく。
川の水は冷たくて、流れもそこそこ速い。

どれくらい流されてきたのか、飼い犬なのか野生なのか。

なんでもいいけど手を差し伸べてやりたかった。


「っ、」

あと、少しという所だった。
俺に気付いた子犬が、足を滑らせて川の中に落ちてしまう。