春に笑って、君宿り。

「……ただいま」


家に帰って、返ってくるはずないのに呟いてみる。

両親は俺が幼い頃に海外での仕事を選んだ。
父さんは外科医で、母さんはそれにただついて行った。

もうしばらく会っていない。

2人は俺を連れて行くことはなくて、親戚のおばさんに預けた。
高校入学と共に家族3人で暮らしていたこの家に、1人で暮らすことに決めた。


「……」


雪杜の名に恥じないようにと
世間体を気にするおばさんだった。

そんなもののせいで、ありもしない噂がいろんなところで広がって。

まあ、俺が必要以上に人と関わることを諦めたせいでもあるんだろうけど。

何もしていないのに
何かをしたと、全く知らない人に言われる。

そしていつだって全く知らない人の言葉を信じるんだ。
……目の前の俺じゃなくて。


ケトルのスイッチを入れて、カップ麺をそっと用意する。


両親が置いていった、無駄に豪華でサイズのある家具だけが置かれている家。

こんなところでも、あのおばさんたちがいる家にいるよりマシだ。


――カチッ


お湯が沸いて、カップ麺に注ぐ。
そろそろ補充しなくちゃな。

料理……なんてする気分でもない。