春に笑って、君宿り。

*奈冷side*


「『花の色は うつりにけりな いたづらに 我が身世にふる ながめせしまに』。えー、この時の『いたづらに』というのは……」

「……」


百人一首。
伝説の美女と言われた小野小町の歌だ。

窓から外を見れば、校舎を囲んでいた桜の木々が青々としている。
遠くの山の方では紅葉がところどころ始まっているようだった。

9月。

今日で何日目、だっけ。


「えー、雪杜、答えてみろ」


先生に指され、小さく返事をしてから机に手を当て、重たい体を持ち上げた。


「3日……」

「?」

「あ、」


ハッとして、あわてて答えた。


「形容動詞『いたづらなり』の連用形、です」

「よろしい。今言ったように~……」


ほっとして席に着いた。
授業もろくに頭に入ってこないなんて。

……明後日帰って来て、土日をはさんで、月曜日には、まあ。