葵くんが来て、2時間ちょっと。お母さんたち、羽田国際空港(はねだこくさいくうこう)から出ているハワイ行きの飛行機に乗って旅立った。

 1か月間も帰ってこないのかと考えると、お母さんたちのありがたみを感じる。

 私は1人、部屋に(こも)って、泣いていた。


 因みに、部屋は2人別。

 別に私は葵くんといっしょでもよかったんだけど、お母さんが、「年頃の2人がねぇ。お母さんはいいんだけど、お父さんが心配するといけないから」と言ったため、別々の部屋になってしまったというわけだ。

 葵くんも納得したので、私だけが嫌とも言えなかった。

 大好きな葵くんと過ごせるだけいいと思った方がいいだろう。
 

 涙がひき、きゅんきゅんする少女漫画を読んで気を紛らわせてから、葵くんのいる1階に降りて、ドアの隙間から覗き込んでみた。

 葵くんは、どこから出したのか不明のコーヒーを飲んでいた。

 コーヒー飲んでる!

 いいなぁ

 飲み方、綺麗!

 というか、葵くんはいつ、うちの家のコーヒーの在りかを知ったのだろう。

 この家に15年住んでいる、私でもコーヒーの保管場所は知らない。

 葵くんが紅茶が好きなお母さんか、コーヒー大好きお父さんに聞いたのかな?

 確かに紅茶とコーヒーは同じ場所にあるはず。

 私が紅茶の保管場所を知っていて、コーヒーの場所を知らないのには訳がある。



 私は根っからの紅茶好きだ。お母さんの影響で。

 お母さんも紅茶好き。
 
 私が物心ついたとき、たまたま目にした、見たことのない飲み物を一口飲ませてもらった。そのとき、世の中にこんなおいしいものがあるのかと感動。その頃から紅茶が好きになった。そして、お母さんにいつでも飲めるように、身長の低い私でも手が届く位置に置いてもらった。今思えば、小学生にもなっていない子供が紅茶を飲むなんて、おもしろい話だと思う。

 でもコーヒーはだめだった。お父さんに、コーヒーは苦くて、大人の飲み物だからと言われ、紅茶の後ろの、絶対に手が届かない場所に置かれている。

 だからコーヒーの保管場所を知らないんだ。

 葵くんは大学生だから教えてもらえたのかな。

 大学生っているだけで・・・・・・ズルいっ!