「へえ、そうですか。空の番人である鳥の名を持ちながら、貴女は海へ惹かれると……面白いですね」
「遥か遠い昔は、すべて海だったと伝わっているもの。自然な原理よ。また、水に還るといいの。そしたら人は空など忘れて生きていけるはずだから」
「……どちらにも還れはしないのですけど、“貴女”はね」
人の夢は遥か遠く。
トロイの儚い囁きはふと消え、一冊の本をカナリアに差し出した。
「これ、とても面白いですよ。希少な本ですので大事にしてください。
――貴女の夢物語、退屈しのぎにはなりましたよ」
カナリアは遠ざかる背中を見送りながら、食えない男だと内心思った。
今日も空への怨嗟(えんさ)を吐きながら、この世界で生きていく。
「遥か遠い昔は、すべて海だったと伝わっているもの。自然な原理よ。また、水に還るといいの。そしたら人は空など忘れて生きていけるはずだから」
「……どちらにも還れはしないのですけど、“貴女”はね」
人の夢は遥か遠く。
トロイの儚い囁きはふと消え、一冊の本をカナリアに差し出した。
「これ、とても面白いですよ。希少な本ですので大事にしてください。
――貴女の夢物語、退屈しのぎにはなりましたよ」
カナリアは遠ざかる背中を見送りながら、食えない男だと内心思った。
今日も空への怨嗟(えんさ)を吐きながら、この世界で生きていく。



