いくら足掻いても永遠に届くことのない夢を見るとは、愚者のする事じゃないの。


「みんな空へ還りたがってるんですよ。貴女は、還りたくはないのですか?」


 誰もいない図書館の中、そう問いかけたのは柔和な笑みを浮かべる青年だった。深緑の瞳が興味深げにこちらを見ている。

「どこのどなたかしら。まず先に名乗りなさいよ」

 青年は本当にそう思ってるのか疑わしいくらい、うやうやしく頭を下げた。

「嗚呼、失礼。私は一応この図書館の者で、名はトロイ」

 一見紳士のようだが、カナリアからしたら胡散臭い。今度は自分の番――。

「私はカナリア。空に還るくらいなら、水底に還るもの。それで魚になるの。魚になって、本当の故郷に還るのよ」


 私は魚になりたい。



 美しい神秘的な瑠璃の海を泳いで、故郷へ還る。海の向こうにあるという、ニライカナイへ。