★.:* ◌𓐍𓈒 LAST シンデレラ 𓈒𓐍◌ *:.★~挙式前夜に運命の出逢い~

 私は、初対面の人に何血迷ってるのと苦笑いし、お酒のせいにして全てなかった事にすると決めた。

 ……でもキスには違いない。

 私は、好きな人以外したくないのに全然嫌じゃなかったのを不思議に思う。むしろ嬉しいなんてどうかしてる、まんまとお酒マジックにやられてるとも思う。お子ちゃまの私には、ほろ酔い程度がお似合いと納得し、これ以上甘えて迷惑掛けたくない、後1杯で大人しく帰ろうと思う。

後1杯でさよなら、きっともう二度と逢うこともない。ほんの一夜だけ奇妙な偶然で交わっただけ……。

 感傷的な気分に浸りまた泣きたい気分でいると、次は小さなグラスが運ばれてきた。

「……白ワイン?」

「世界三大貴腐ワインの一つ、フランスのソーテルヌ。蜜のような甘味が特長で最高級の極甘口ワイン。午前中は霧が立ち込め、午後は晴れの条件が必要な希少価値の高いワインだよ。ヴィンテージ物の中には、オークションで一本数千万の価値が付く物もある」

 一本数千万!? し、信じられない……きふワインって? ま、最高級の極甘口なら飲まずは損。

「甘~い! ほんとに蜜みたい。……香りも最高です」

「だろ? バニラやアプリコット等の香りが複雑に混ざったような上品でデリケートな味わい」

 彼は、驚愕して見上げる私にとても嬉しそうに答えた。

 その後もったいなくてチビチビ飲む私を、極上の微笑み浮かべて見守ってくれる。

 極上男性と最高級のワイン。まさに極上の一時で女のロマン?

 彼にこのシチュエーションでさりげなく口説かれたら、殆どの女子は即オチかも。で、完全ロックオン? でも私は、一夜限りの恋はしない。初めては、彼以外考えられないくらい大好きな人と……そう決めて大切に守ってきたのに……。

 顔と名前しか知らない人と身代わり婚とは夢にも思わなかった私は、突然超大きな溜息を漏らした。

 ……この人なら良かったな。

 割り切っていたはずなのに抑え込んでた悲しみが、激しい竜巻のように胸の奥から立ち上ぼり、次から次に勢い良く涙が溢れ滴り始めた。

 彼は、そんな私をすぐに抱き寄せ、また大きく温かな手で背中を労るようにさすってくれた。そして少しずつ嗚咽が漏れるのを塞ぐ私のおでこを、自分の黒シャツに押しつけ静かにこの髪を優しく撫で続けてくれた。

 そんな彼の全てを包み込むような優しさに一瞬で癒されながらも、刻一刻と迫る別れにより深い悲しみがわき上がり一向に涙が止まる気配はない。