桜の花びらのむこうの青

一枚目は、私が踵の痛みに耐えながら下唇を噛んで取材風景を真剣に見ている姿。

二枚目は。

……私が弾けた顔で笑ったアップの写真だった。

こんな自分の表情は見たことがない。

それに、いつ笑っていたのかも思い出せなかった。

念のため聞いてみる。

「これ、私ですよね?」

「もちろん。君の他にこんなにかわいい女性がいた?」

ドクン。

彼はそう言って優しく微笑むと、運ばれてきたコーヒーを肩ひじをついて飲んだ。

さらっとそう言った彼は、正面に座っているはずなのに、随分遠くにいるような気がした。

きっとこれが世界にいつか行くだろうプロの技なんだ。

今になって、そんなくだらないことを聞いてしまった自分が恥ずかしくなる。

それに、さっきからずっと顔が熱い。

「そうそう、この一枚目の写真だけど、森村さん、ずっと何かの痛みでも我慢していたんじゃない?」

バレてた。

「すみません、靴ズレしちゃって……お恥ずかしい限りです」

「やっぱり。でも、君は必死に堪えて最後まで一人で完璧に仕事を遂行してたよね。感心したよ」

そんな風に見てくれてた人がいたなんて……。

私を見つめながら彼は優しいトーンで続けた。

「痛いなら痛いって誰かに言えばよかったのに。きっといつも一生懸命なんだね。俺なんか意の赴くままに生きてる人間だから本当に申し訳ないって思うよ」

柳江さんはそう言うと、袖をまくり上げておどけた調子で笑う。

まくり上げた腕は、想像していたのと違ってとても筋肉質で逞しい腕だった。

その腕が目の前に伸びてきて、私の笑顔の写真を指さす。

「一生懸命の君も素敵だけど、俺はこっちの君の方が好き」

す、好き?

突然飛び出した彼の言葉は、私に都合よく解釈され一人勝手に動揺していた。

もちろん、恋愛の好きとは違うってわかっているけど、こんな素敵な男性に正面から「好き」だなんて言われたら誰だって。

格子窓から午後の黄色い光がテーブルに落ちて幻想的に揺らめいている。

まるで夢の中にいるみたいだ。

「実は、今日ここへ呼んだのは、もう一つ、折り入って頼みたいことがあったからなんだ」

私はゆっくりと幻想的な光から彼の方に視線を上げた。