桜の花びらのむこうの青

その後、取材が始まり、柳江さんはカメラを構え、社長が答える表情をあらゆる角度からシャッターを切っていく。

今回は新社長就任ということもあり、見開き二ページで紹介されるらしい。

私にはいつも冗談ばかりの速水社長だけど、結構すごい人なんだよね。

そんな社長の秘書だなんて、本当は恐れ多い。

靴ズレなんかしてるようじゃまだまだだ。

私もいつか……。


「はい!これで終了です。速水社長、本日はお忙しい中お時間頂きありがとうございました」

記者の一人が立ち上がり社長に深々と頭を下げると、柳江さんに目配せする。

彼も軽く頭を下げ、社長にゆっくりと歩み寄ると柔らかい笑顔で言った。

「いつも、取材の後、関わった全ての人達の集合写真を撮らせて頂いているんですが、よろしいでしょうか」

「それはいいね。記念になる」

速水社長は嬉しそうに頷くと、私の方に視線を向け手招きした。

え?私も?

「彼女も一緒にいいかい?私の専属秘書の森村くんだ。今日も朝からよく働いてくれてね」

柳江さんは戸惑っている私に微笑むと前髪をかき上げて言った。

「もちろん、彼女も一緒にと思っていました」

私は慌てて頭を下げると、皆がいる方へ急いで向かう。

記者二人と社長のなぜか真ん中に立つように指示され、なんとも落ち着かない。

フレーム越しに彼がこちらを見つめている。

きっとあの真剣なキラキラした眼差しで。その目を思い出すと胸の奥が熱い。

記者が私の耳元でささやいた。

「あのカメラマン、かなりの才能の持ち主でね。まだ三十という若さで、独学でセルフプランニングからディレクションまで一人でやってのける業界でも信頼の厚い人気カメラマンなんだ。いつか世界に行く人間だと思うから、君も撮影してもらってたら自慢できる日が来ると思うよ」

そうなんだ……。

カメラの世界なんて少しもわからないけれど、きっとそれってすごいことなんだろう。

彼のシャッターを切る音が社長室に美しく響いた。