秘書室の正面にあるエレベーターが開き、『東栄出版社』と書かれた腕章を付けた二名の取材記者とその後ろから一眼レフを肩から下げた長身の男性が出てきた。

「本日はよろしくお願いします」

眼鏡をかけ、無精ひげを生やした記者の一人が名刺を出しながら秘書室長に挨拶をする。

秘書室長は、いつものやんわりした口調で、
「どうぞこちらへ」
と言いながら私に目配せをした。

「速水社長の秘書を担当しております森村です。社長室はこちらになります」

そう言って一歩踏み出した私は一瞬踵のことを忘れていた。

「いだっ!」

思わず声が洩れ、体がよろける。

「大丈夫ですか?」

よろけた私の体はがっしりとした強い腕支えられていた。

慌てて体勢を立て直すと、私の体を支えていた、カメラマンらしき男性が心配そうに私の顔を覗き込んでいる。

痛みを脈打つ踵は、あまりに至近距離なその端整な顔立ちに痛みを忘れ更に速度を上げた。

「森村くん?」

彼の背後で、甲高い秘書室長の声が聞こえ我に返る。

「大変失礼しました!」

カメラマンの男性にひきつる笑顔で会釈をし、急ぎ足できしむ踵をかばいながら三人を社長室へ先導した。

だめだ、出だしからこんなんじゃ先が思いやられる。

社長室に案内すると、後はこちらでやるからとカメラマンの男性が優しく微笑み、私は頭を下げ、お茶を淹れるために一旦退出し給湯室に向かった。

緊張と痛みで張りつめた体は少し震えている。

「森村、大丈夫?」

給湯室に逃げるように飛び込んだ私のすぐ後ろから、先輩秘書の遠藤 沙織(えんどう さおり)が心配そうな顔で入ってきた。

彼女は元社長秘書で、ばりばりのキャリア十年目。

容姿端麗、頭脳明晰、誰よりも頼りになる先輩だ。