桜の花びらのむこうの青

本当にショックな時は涙も出ない。

ただ茫然と彼のワークチェアに深く腰を静めた。

ワークチェアが軽く軋む。

デスクの上の観葉植物の葉が随分茶色くなって、枯れ掛けていた。

私がちゃんとお世話してなかったからだ。

観賞植物を手にとり、キッチンに向かう。

かさかさになった鉢に水道水から直接水を注ぎ入れた。

この茶色くなった葉はまた息を吹き返すだろうか?

鉢から水が溢れ出し、慌てて蛇口を戻した。

省吾さん、今どこにいるの?

痛い思いをしているの?苦しくない?

それとも同行したメンバーの看病をしているの?

何もわからない。

ベランダの窓を開け外に出た。

見上げると、私の思いとは裏腹に晴れ渡った青い空が広がっていた。

白い飛行機雲がキーンと耳をつんざくような音を立てながらその青空を上下に分断していく。

この青い空は、彼のいる場所にもきっと繋がってる。

ただそれだけが救いだった。

青い空を見つめながら、銃弾に倒れた彼の友人を思う。

どうか、省吾さんを守って下さい。



もうすぐ彼が帰ると約束した四月が迫っていた。