桜の花びらのむこうの青

結婚、かぁ。

付き合ってまだ一年半。

きっと今彼は新しい仕事に必死だ。結婚なんて彼の頭に微塵もないだろう。

省吾さんは芸術家肌だし、先輩の言うように二人の未来をどう考えてるのかも正直わからない。

敢えてそんな話をしたこともないし、今精一杯生きてるって感じが私も心地よかった。

もし、省吾さんが二人の将来を全く考えてないからといって、私が違う人と生きていけるかっていうと……。

今は彼以外に考えることはできない。例え結婚が遠ざかっていったとしても。


今日は飲み過ぎたかな。くだらないことばかり考えてしまう。

ベッドに横になると、こめかみがキリリと痛んだ。

痛いと思いつつ、気づいたら寝てしまったらしい。

手元に置いてあったスマホが震えているのに気づき体を起こすと、部屋の電気は点けっぱなしで、時間を確認したら午前一時半少し回ったところだった。

こんな時間に電話?

なぜか嫌な予感がしてスマホを見るとやはり省吾さんからだった。

『ごめん、起こしちゃった?』

「ううん、うたた寝しちゃっただけだから大丈夫。だけどこんな時間にどうしたの?」

なぜだかざわつく胸を枕で押さえながら尋ねる。

「実はここ二週間ほどニューヨークから離れていてY国まで撮影に行ってた」

Y国?

確か最近ニュースで紛争が激化していると言ってたような気がする。

「まさか仕事で?」

「ああ、多分俺の映した画像がネットニュースでも使われてるはずだよ」

私も、毎日のように日和ネットワークが提供しているタイムリーニュースを見ているけれど、Y国で武力闘争の結果激しく損壊した建物や、傷ついた人々が映し出された画像が記憶に残っていた。

「一昨日だったか、ひどい画像が載っていたけれど、まさか省吾さんが映したの?」

「そう。想像以上に現地は荒れてる」

「もう、そういう危険な地域に行く仕事してるんだ……」

あの画像を思い出して胸が締め付けられる。

「カメラマンは何人かいるから、必ずしも行かなきゃいけないことはないんだけど、今回は自ら志願した」

「どうして?」

思わず大きな声が出てしまった。