桜の花びらのむこうの青

「心配だけど……でも、省吾さんの夢がそこにあるなら行くべきだと思う」

かすれる声でそう言うと、必死に笑顔を作った。

この一年、私は十分愛されたし、楽しかった。

「向こうから毎日メール送るよ」

彼はそう言うと私をぎゅっと抱きしめた。

「半分にして聞いておくわ」

必死の抵抗だった。

誰かの便りを待つって、それだけで負担だもの。

来ると信じて来なかったら、相当にショックなものだ。

彼はソファーの上に私を押し倒すと、何も言わずいつも以上に激しく長く私を愛した。

私は抱かれながら、心の中でずっと泣いていた。

行かないでって……。



その一か月後、省吾さんは桜吹雪が舞い散る中、青い空の向うにあるニューヨークへと旅立っていった。


【帆香 元気ですか?久しぶりのニューヨークの街は活気があり、刺激があります。セントラルパークでできたかわいい友達を送ります。 省吾】

メールにはいつも写真が添付されている。

その日は、茶色いリスが口いっぱいにどんぐりを頬張っている姿と、赤い風船を持って彼に差し出している金髪のかわいい少女の写真。

彼が向うで生き生きと暮らしている様子が手に取るような写真ばかりだ。

今はまだ街での出来事や情報発信に特化しているけれど、いつ危険な場所に出向かなければならなくなるのかは全くわからない。

平和な場所にいてくれるならそれでいい。

半年ほど経ち、向うの生活にも慣れ仕事も忙しくなってきたのか、毎日あったメールが少しずつ一日置きになり、一週間置きになってきていた。

こうやって、メールもなくなっていくのかな。

毎日メールボックスを確認することが空しくて、敢えて一週間開かない時もある。

そんな最近元気がない私を心配して、遠藤先輩が飲みに誘ってくれた。