桜の花びらのむこうの青

「この写真はその直後に撮ったもの。桜じゃなく敢えてあいつがいるかもしれない空に思いを馳せて撮った。とても濃い青だったよ」

私の好きだと思ったこの写真には、そんな彼の思いが映り込んでいたんだ。

「すみません、そんな辛い話させてしまって……」

桜の向うに映る青い空を見つめながら小さく謝った。

「謝ることなんてないよ。彼も喜んでるんじゃない?森村さんみたいなかわいい人に自分のことを知ってもらえるきっかけになって」

彼はそう言うと、私を慰めるように笑った。

「気にしないで。俺も君にこの話ができてよかった」

柳江さんの大きな手が私の肩をポンポンと優しく叩く。

突然のことに驚いて、すぐ後ろに立っている彼の顔を見上げた。

彼も少し驚いた顔をして私を見つめている。

このまま、ずっとここでこうしていたい。

彼の悲しみも喜びも全部抱きしめたい。

見つめ合っていたら、酔いのせいか、自分の気持ちが抑えられなくなりそうだった。

突然、柳江さんの顔が近づきその唇が自分の唇に触れた。

一瞬のことに何が起こったのかわからない。

彼の目は少し潤んでいるように見えた。

その瞬間私は彼に抱きすくめられる。

その力はとても強く、その体はとても熱かった。

「帆香……」

彼が耳元で私の名前を呼んだ。

ドキドキが爆発しそうになる。

今まで堪えていた気持ちが、溢れてしまいそうだ。

私は彼の背中に手を当てた。

「帆香は俺にはないものをたくさん持ってる。そんな君にどれだけこの一年助けられただろう」

彼の熱い吐息が耳にかかる。

「いつの間にか君に夢中だ」

柳江さんの向うに桜が舞っていた。

背中に回した手にぐっと力を込めて言う。

「私も……」

「帆香のこともっと教えて」

彼は再び私と唇を合わせた。さっきよりも熱くて深いキス。



その夜、私は初めて彼と結ばれた。