桜の花びらのむこうの青

間違いなく、私の周りにはいないタイプの人だ。

どんな時もぶれない信念をもって前へ突き進む。

何よりも大切なカメラを片手に。

この人の目の輝きは、仕事に呑まれていないからこそ存在するのかもしれない。


この人のそばにいたい。


会えば会うほど、私の中に彼が充満していく。

恋なんて、そんな簡単な感情で表現したくない。

彼のこれからをずっと見ていたい。

例え、その気持ちが成就しなくても、そばにいれるだけで幸せかもしれない。


専務が帰った後、彼は私のためにコーヒーを淹れ、座るように促す。

「今日はありがとう。本当に助かったよ」

「いえ、こちらこそ貴重な経験でした」

椅子に腰かけると、大きく深呼吸をして彼を正面から見据えた。

「もし……もしご迷惑でなければ、これからも時々柳江さんのお手伝いに来てもいいですか?」

彼は目を丸くすると、飲みかけたコーヒーをソーサーに置く。

怖かったけれど、彼から目を逸らさらなかった。

今まで誰かにこれほどの決意表明をしたことなんてなかったから自分でも驚いている。テーブルの下の両手をギュッと握りしめて、彼からの言葉を待った。

柳江さんは右手で額を覆い、目をつむってしばらく考えている。

そしてゆっくりと口を開いた。

「これまで、誰かのサポートを受けずにできる範囲で仕事を引き受けてきたし、これからもそのつもりだった」

「……はい」

「ん……。でも、どうして?森村さんは今の仕事に不満でもあるの?」

面接みたいだ。

彼はきっと私を試してる。そんな気がした。

「今の仕事に不満はありません。いい上司や先輩に囲まれて、誰かのために働くことも楽しいです。だけど、柳江さんの仕事をもっとそばで見ていたい……これからもずっと見ていたいって、柳江さんと会う度にその気持ちが膨らんでいきました」

全部本当の気持ち。

意思を込めて見開きすぎた目が痛い。

「俺の仕事を見ていたい?」

「はい。こんな気持ちになったのは初めてです」

強張った表情の私とは対照的に彼は全てを悟ったかのような穏やかな微笑みを向けた。

「ありがとう」

そして、私の目をしっかりと見つめながら続けた。

「実は、今日専務からの話で、今までの仕事プラスとなるとかなり多忙になりそうなんだ。事務処理なんかも今以上に発生するし、今日のような商談もこれから増えるかもしれない。もしよければ君の今の仕事に支障が出ない範囲でお手伝いしてもらえると助かるよ。もちろんそうなれば、きちんと報酬も支払わせてもらう」

私は更に目を見開いた。


「ありがとうございます!報酬だなんて結構です。ここでお手伝いできるだけで十分です!」

「いやいやそういう訳にはいかない。その代わり、きちんと君の仕事を用意しておくし、責任もってやってもらいたいから」

嬉しさで心も体も震えている。

こんなに嬉しくて感動したのはいつ以来だろう。


その日から、私は週末だけ彼の仕事を手伝うことになったのだった。