勘違いをしていたことであかりはさらに赤くなり、耳まで赤くなって頭を抱えてうずくまった。墓穴を掘っちゃった、というようすであったが。名渕はその手の話しに疎い。「どうした」

「腹の具合でも悪いか」
「いえ……。……自分が……その、分不相応に夢見すぎているから……情けなくて」
「結婚願望など、大抵の誰もが抱くだろう。別に不相応でもないと思うが」

 心底不思議そうに、何を恥じらっているんだ? といったようすで名渕が言うので、あかりは視線を泳がせて、赤くなりながら盛大にため息をついた。この人、やっぱりちょっと変わってる。そう思うも、視線を持ち上げ姿勢をゆっくり正し、そうですね。と少し考えた後に頷く。

「素敵なお嫁さんになれたら……いいですね……。お母さんも、家の傍の幼稚園を通りかかるたび、いつも可愛い小さい子。いつか孫の顔が見てみたいわ。って、言っていたので」

「お墓に連れて行って、子供と旦那さんとお花を手向けられたら。」お母さんも、きっとお空で大喜びです。──はは、と屈託のない笑顔で。しかし赤くなり言うあかりに名渕は少し笑った。「ああ」

「聞く限り、きみなら、良妻になれると思うね」
「そうですか? ……ふふ。嬉しいです」

 そのまま会話が続き、午後の診察までついつい話していると、痺れを切らした深理が自転車を走らせやってきた。遅い、家永さんが在りながら何だべってんだ・と、小突いてくるほどであったので、あかりは真っ赤になり謝っていた。
 しかし名渕は、深理が他人の髪を自分から触ると聞いたことで。こいつも変わりつつあるのだなと感じ、あかりの影響で少しずつ変わりだす人々のことに気づいて、感慨深く思ったのだ。

 *

「今日は俺が作る」
「大丈夫ですよ。名渕さんに頂いたお薬、効いてますから」