純ちゃんの引っ越し先は、遥か彼方の内陸の街と聞き、僕は、純ちゃんに海を見に行こうと誘った。
 まだ幼かった僕らにとって、何度も電車やバスを乗り継ぐのは大冒険みたいなもの。
 近くの海ではなく、僕の親戚の家の近くの漁村にある海浜公園へ行ったのだが、そこには、海水浴シーズン以外は人もいない。
 その日は珍しく快晴で、空も海も果てしなく青かった。
「空と海の区別がつかない…」
 純ちゃんは、思ったままに呟いただけなのだろう。
 それでも僕は、その言葉と、まだ幼かった彼女の横顔が今も忘れられない。
「純ちゃん、これでお別れとは思ってないよ。手紙も書くし、すぐには無理かもしれないけど、必ずまた会おう!約束」
 小さな指を絡ませた約束から、10年も経ってしまったが、僕が受験勉強を乗り切れたのも、彼女の励まし、そして、同じエリアで大学生活を過ごせるというのは、かなりのモチベーションに繋がった。