「ゆずな〜、家の鍵忘れたから一緒に帰ろうぜ〜」

「……ひょわっ!?」


考え事をしていたら、突然、柚希の顔が間近にあって、思わず肩を飛び跳ねてしまう。


「…あ、あれっ、もうHR終わってる…!?」


気がつけば、教室にはクラスメイトたちの姿はほぼ見当たらなかった。


「弓地がバイトあるから先に帰るって言ってたぞ」

「……そ、そっか」


ももちゃんが柚希に言伝を頼むほど、私は自分の世界にのめり込んでいたのか…。

ため息混じりに立ち上がって、教室を出る。


「なーなー、ゆずな」

「…何?」


廊下を歩いている途中で、柚希が話しかけてきた。


「おまえ、今好きなやついる?」

「……えっ、は?急にどうしたの?」


何でいきなり恋バナ?
柚希と色恋沙汰の話なんて、滅多にしないのに…。


「……なーんだ、おまえなら即答で『槍田くん♡』って答えると思ったのに…」

「へっ…?」

「そっかそっか〜、槍田じゃないのか〜…」

「…な、何?何なの?」


意味深長なことを言ってくる柚希に眉を顰める。


柚希の言う通り、好きな人(?)は槍田くんのはず───…なのに。

喉の奥で何かが引っかかっているような感覚がするのはどうして?


そう疑問が湧いてきたと同時に、少し頭に痛みが走ったような気がした。