なんてことを考えながら、ちらり、横目で剣城くんを盗み見る。
彼の前の席に座っている友人と楽しそうに話していて、再度ムッとしてしまう。
自分の方からキスしたくせに、どうして何事もなかったかのような態度でいられるのだろう。
彼みたいな容姿に恵まれている人は、皆、キスの一つや二つ、当たり前であって、容易いことなのかもしれない。
…けどさ、剣城くん。私はあれがファーストキスだったんだよ。
なのに、肝心の本人は普通に挨拶してくるし…。
主導権を握られ、私だけドキドキして、混乱して。
いちいち反応しまくっている自分が馬鹿みたいじゃないか。
弄ぶなら他の子にすればいいのに。
そう思った途端、胸の辺りがズキッと痛んだ。
更には、ぎゅっと締め付けられるような感覚がして、苦しくなっていく。
「……っ」
…もうやだ。
何でこんなモヤモヤしてるのかわからない。
恋愛なんてしたくない。
惨めな思いをしたくない。
槍田くんのことも、もう知らない。
『彼を思い出す度に"好き"が増す』なんて、言ってしまったけど、最近、槍田くんが夢に出てこない。
今、私の中には、槍田くんよりも、彼の方が大きくなって───…。