▽side 剣城



「…ヘ、ヘヤモドル……」



真っ赤な顔でそう言った盾石は、勉強道具を一式抱えて、ヨロヨロおぼつかない足取りで部屋を出て行った。

彼女が去った後に柚希が戻って来て、不思議そうな表情で俺の方を見る。


「さっき、ニホンザルみたいな顔したゆずなとすれ違ったんだけど、おまえ何か大胆なことでもしたん?」

「……キスした」


俺の答えに柚希は何度か瞬きをし、ブハッと可笑しそうに吹き出した。


「わははっ!マジかよ!キスされただけであんな真っ赤になんの!?相変わらずゆずなは表情豊かだよな〜!!」

「…怒んないの?」

「んえ?いや、別に?相手が他の男だったらぶん殴ってたとこだけど、あやとならいいかな〜って…」

「柚希は姉に対して過保護だな」

「ふははっ、だってゆずなにはもう、辛い思いさせたくないしな!」

「…そっか」


柚希は俺の向かいに腰を下ろして、伏し目がちに口を開く。



「……ゆずなの初恋の相手は、おまえだよ」

「……」

「…槍田じゃない。オレ、2人のことずっと近くで見てたからわかる」