剣城くんは押し強い






お風呂から上がった私は、ガーッと、ドライヤーの音を右から左へと聞き流しながら、洗面所の鏡と向き合うようにして髪を乾かす。

鏡に映る私の表情は少し強張っている。


洗面所を出てすぐに剣城くんと遭遇したらどうしよう。

自分のだらしない私生活をあの人に見られるなんて、絶対に嫌。恥ずかしすぎて無理。


カチッと、ドライヤーの電源を切った後、朝の時でしか使わないヘアアイロンを取り出して、念入りに髪を整える。

剣城くんが自宅にいるだけだというのに、心臓がやたらとうるさくて、何だか落ち着かない。

いつもは適当にドライヤーで乾かしてそのまま終わらせるのだが、今日は一段と髪の手入れに気合が入る。


…別に、これは剣城くんのためではない。

クラスメイトの前で恥をかけぬよう、情けない姿を見せないようにであって。

同級生だけども、柚希の姉として、弟の友達の姉としての振る舞いなのであって…!

特に剣城くんを意識しているわけではなくて───…!!



「盾石、たこ焼きできたって」

「…ヴァッ!!??」



本日、二度目の背後から登場してくる剣城くん。