微笑ましそうに私たちのやりとりを見ていた剣城くんは、「全然迷惑じゃないよ」と言って、首を横に振る。

剣城くんの優しさが滲み出てしまっている。

根が良い人なのは何となく知ってはいるが、私の前になるとびっくりするくらい肉食系男子になるんだよなぁ…。


「ほら〜、あやともこう言ってるわけだしさ〜。お泊まり会していいだろ〜?父さんも仕事から帰ってくんの夜中ぐらいだろうしさ〜」


「お姉ちゃんお願〜い♡」と、手を合わせて可愛くおねだりをしてくる弟。

こういう時だけ都合よく私を姉扱いするのはやめていただきたい。


「…か、勝手にすれば!?私は知らない!」


面倒になった私は、それだけ言って部屋を飛び出した。

階段を駆け下りて、リビングの向こうの和室に逃げ込む。

仏壇の前に腰を下ろし、ろうそくに火を灯して、お線香を立てた。

ちん、とりん棒でりんのふちを叩くと、綺麗な音が静寂に響く。

飾られた写真に映るお母さんを見つめた後、両手を合わせながら目を閉じる。

私は、お母さん…と、心の中で語りかけた。