「剣城くんの下の名前、"アヤト"って言うの…??」
私の質問にももちゃんと柚希が今更…?と言いたげな表情をする。
そんな2人をよそに彼の名前にどこか違和感を抱く。
その拍子に少し頭に痛みが走った。
皆、大体剣城くんのこと苗字で呼んでいる。
けど、何でだろう。
何でこんな、靄がかかったような感覚なんだろう。
難しい顔で考え込む私を見た剣城くんは、眉を下げて小さく笑う。
「盾石、人の名前あんま覚えないタイプだろ」
「えっ!?い、いや、別に覚える気がないとかじゃなくて、覚えるのが苦手なだけであって……」
「ははっ、何でそんな焦ってんの」
「……っ」
目を細めて微笑む彼の表情にドキンッ…と心臓が大きく音を立てた。
次第に恥ずかしくなってきて横髪で自分の顔を隠す。
やだやだ、体育祭の時みたいにまた心臓ドキドキしてる。
私の馬鹿、何をときめいてるんだ。
単純すぎる。軽薄で最低だ。
私には槍田くんという人を想っているんだから。
…そうだ、槍田くんのことを考えよう。
私は何度も槍田くんの名前を唱えた。


