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『ゆず』
幼い男の子が小さい手で少女の手を握った。
『ゆず、ほんとにおれのことおぼえてないの…?』
悲しそうで、切なそうな声で少女に問いかける。
『どうしてないてるの?どこかいたいの?』
───これは、私が男の子に話しかけているのだろうか…。
それとも、誰かの夢を見ているのだろうか。
『なかないで。わらって。こわくないよ、だいじょうぶだよ』
手を握り返すと、男の子は唇をぐっと噛み締めた。
その瞬間、目尻から涙が溢れ、頬を伝った滴が少女の手の甲にぽたりと落ちた。
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「盾石さん、具合どう?」
ふと、重たい瞼を上げると、養護教諭の先生が様子を見に来てくれたのか、上から覗き込むようにして声をかける。
「……」
「…うん、体調は大丈夫そうね」
先生は私の顔色を窺って、にっこり微笑んだ。
「もうすぐ閉会式始まるけど、盾石さん出られそう?」
「へーかいしき………閉会式!!??」
勢いよく上体を起こし、ベッドから飛び降りてバンッ!!と窓を開ける。
運動場の様子を確認すると、朝礼台付近に全校生徒がわらわら集まり出しているのが見えた。


