目の奥が熱い。
涙が溜まっていく中、ぎゅっと握る手に力を込めると、
『どうしてないてるの?どこかいたいの?』
穏やかな声が鼓膜に届いた。
顔を上げると、彼女は再び微笑みながら、言葉を紡ぐ。
『なかないで。わらって。こわくないよ、だいじょうぶだよ』
手を握り返されて、下唇をぐっと噛み締めたと同時に、目尻から涙がこぼれ落ちた。
それからというもの、俺は、ゆずなと極力関わらないようにした。
ゆずなが退院しても、会話を交わすこともなく、目も合わさなかった。
彼女の姿が視野に入るだけで、苦しくて、泣きそうになったから。
だから、できるだけゆずなから目を背けて過ごすようにした。
そして、小学2年生になる頃に父親の転勤が決まって、俺は両親と一緒に地元から離れた。
心の中には、盾石との思い出ばかり蘇ってきた。


