『ゆず』
別の日に、ゆずながいる病室へと足を運んだ。
ぼんやりとベッドの上で一点を見つめていた彼女は、名前を呼ばれて、こちらに振り向いた。
ベッドの側まで歩いて、丸椅子に腰掛ける。
そして、手を握って、こう聞いた。
『ゆず、ほんとにおれのことおぼえてないの…?』
じっ…と、虚な瞳で俺を見つめるゆずなは、フッと微笑みながら口を開いた。
『あなただあれ?』
『おれ、あやとだよ……』
何で忘れてしまったんだよ。
何で俺だけ覚えてないんだよ。
おかしいじゃん。
ひどいよ、神様。
こんな、優しい女の子の心と体に傷を負わせてさ。
彼女が何をしたって言うんだよ。
それに、何もしてやれない自分が物凄く腹立たしい。
ゆずなが事故に遭っていた時、痛くて、苦しい思いをしながら、必死に生と死の境目で戦っていた時、俺は家にいた。
彼女のために、力になれなかった。
俺、まだゆずなに自分の気持ち伝えられてないんだよ。
───なあ、何で俺たちの思い出を奪っちゃうんだよ。


