『"だあれ"って…。いくらなんでもひどすぎるだろ。しらばっくれんなよ……』
喉の奥で、声が震える。
『おれだよ、あやとだよ……』
必死に俺であることを訴えていると、扉の開く音がした。
すると、ゆずなはすぐに視線を俺から後方へと移して。
『あっ、おとうさん!このこ、ゆずきのおともだち?』
『……あっ、絢人くん…』
『……っ』
この場に居辛くなった俺は、ゆずなたちの父親に挨拶もせずに、病室を飛び出した。
全速力で、病院を出る。
無我夢中だった。
涙で視界が見えづらくなっているのを気にせずに、走って、走って、息が苦しくなるくらい、ただひたすら走った。
その後、母さんから聞いた話によると、ゆずなとゆずなたちの母親───柚葉さんは、交通事故に遭ったそうだ。
柚葉さんは、病院に運ばれている途中にはもう手遅れで…。
一方、ゆずなは、無事に一命を取り留めたのだが、頭を強く打った拍子に一部の記憶が曖昧になってしまったらしい。
自分の家族や親戚、友達に近所に住んでる人たちのことはわかっているのに、何故か俺のことだけ覚えていなかった───…と、母さんが言っていた。


