骨張った手が視界に映ったと思ったら、
「っ…!」
ぐいっと顔を上げさせられ、茶色の瞳と目が合った。
「返事、してくんないと困る」
眉を下げて言う彼に、私は「ごめん…」と謝った。
───それにしても、なんかあれだな…。
「…剣城くん、ちょっと、顔が近すぎると思うんだけど……」
彼───剣城くんは再度頬杖をついて。
「そう?普通だと思うけど」
何を考えているのか読み取りにくく、飄々とした態度で答えた。
首を傾げた拍子に揺れるカーテンの隙間から光が漏れて、ミルクティーベージュの髪がきらめかせていた。
"普通"
この近距離が彼の普通なのか。
今、私が顔を上げてしまえばお互いの鼻先がくっつくんじゃないかという距離なのに、彼にとってのこの近さは"普通"。
…いや、パーソナルスペースどうなってるの?
じーっ…と、視線を感じ、中々手が進まない。
見つめられることが苦手な私は、そっと後ろに下がって顔を上げる。