「盾石には、槍田くんがいるんだからさ。今みたいに、誤解されるような行動はやめた方がいいよ。じゃないと───…」


剣城くんの長い指が私の胸元辺りにあるリボンをくいっと器用に引っ掛けた。

ぐっと引っ張られ、距離が縮まる。


「こうやって、好きでもない男に手出されても知らねえよ?」


低くくて、抑揚のない声だった。

お互いの鼻先がくっつきそうなくらいの至近距離。

無表情で私の姿を捉える彼に、パシッ、と乱暴に手を振り払う。


「今、槍田くんのことは関係ない!」


話を逸らさないで。

知らないふりをしないで。


…ねえ、教えてよ、剣城くん。

全部、思い出したんだよ。


「剣城くんと昔、会っていたことも、この押し花をくれたことも、剣城くんとの思い出も、全部……何もかも思い出したのに……」

「……」


───ずっと、覚えててくれていたのに…。


「何で、言ってくれなかったの……」


剣城くんが『昔、俺と会ってたんだよ』って、教えてくれていたら…。

もしかしたら、もっと早くに気づいていたかもしれないじゃん。