──『ゆず』
白黒の映像が、一気に色づいていって。
幼い男の子が私の手を握った。
──『ゆず、ほんとにおれのことおぼえてないの…?』
──『あなただあれ?』
──『おれ、あやとだよ……』
私、この時、何て言った?
──『なかないで。わらって。こわくないよ、だいじょうぶだよ』
"あやと"と言った男の子は、ぐっと唇を噛み締めた。
彼の目尻から涙が溢れ、頬を伝った滴が私の手の甲にぽたり、と落ちた。
その瞬間、はっきりと、幼い剣城くんの姿が映し出される。
「───そうだ。"あやくん"だ……」
思い出した。
剣城くんに対して、どこか違和感を抱いていた理由。
──『───…ずっと好きだったんだ。あの日から盾石に恋をして、頭の中盾石のことばっかで、好きで好きでたまんなくておかしくなりそう…』
剣城くんが私に告白をしてきた時も、
──『"私を思い出して"』
河川敷で、シロツメクサの花言葉を教えてくれた時も、
──『……俺はまだ伝え足りない』
この押し花を目にした時も───。