剣城くんは押し強い



──『自分を責めることなんてないんだよ。忘れてしまったなら、無理に思い出す必要もない』

──『もっと自分自身のこと、大切にしてよ。"自分もいなくなったら…"なんて、言わないで』


うん、ごめんね。

ごめんね、剣城くん。

でも、もう大丈夫な気がする。

私は今、前に進めているはず。


それに、1番辛いのはお父さんだ。

お母さんがいなくなって、しばらく経った頃、お父さんは、毎晩一人で涙を流していた。

私と柚希が寝たのを確認して、お母さんが微笑んでいる写真の前に座り込んで、泣いていた。

当時、声を押し殺して泣くお父さんの姿を目の当たりにした。

そして、次の日の朝には、目を腫らした状態で『おはよう』って、笑いかけてくれて。

バレバレなのにね。

柚希も私と同様に気づいていた。

でも、私たちは知らないふりをした。


「ゆずな、まだ、記憶戻ってない…んだよな?」

「そう、だね…。微妙に、頭に靄がかかってる状態ではあるけど……」

「……そっか」