▽side 剣城
「おはよう、剣城くん!」
夏休みが明けてから、盾石が笑顔で話しかけてくれるようになった。
母親のことや自分の記憶のことを俺に打ち明け、元気な素振りを装っているのかと思ったのだが…。
「…おはよ」
いつも自分から積極的に挨拶をしていたため、突然現れた彼女に思わず驚いた俺は、弱々しい声で返してしまう。
すると、盾石は嬉しそうにパッと顔を明るくさせ、「あのさ、剣城くん…!」と話を続ける。
「最近話題の映画見た?」
「えっ?あぁ…まだ見てない…」
「そうなんだ!私、ももちゃんと見に行ったんだけど、すっごく面白かったよ!」
一緒に教室へと向かいながら、盾石は、今話している映画について詳しく教えてくれた。
しっかり聞いてはいるものの、話題になっている映画について楽しそうに話す彼女に愛おしさで胸が苦しくなった。
「今からクラスの出し物『君のハートにズッキュン♡チュロス!!』の役割分担を決めたいと思いまーす」
文化祭に向け、放課後のHRで矛杉が黒板に書かれた役割を端から順番に聞いていく。