「……ちゃんと話せた?」
「えっ?あっ、うん!話せたよ!」
「…そっか」
笑顔で頷く私とは反対に、剣城くんは表情を曇らせた状態で返事をする。
剣城くんが私と槍田くんの件でどこまで把握しているのかはわからないけど、あえて何も聞かないようにしてくれていて、改めて、彼の優しさにしみじみと感じた。
「自分の気持ち、伝えられた?」
彼の問いに、先程の槍田くんとの会話を思い出す。
──『私、好きな人がいる』
そう言いきった時、脳裏に剣城くんの姿が浮かび上がってきて、
「…つ、伝えられたよ……」
照れくさいあまり、顔を真っ赤にさせながら俯いた。
「……へー」
剣城くんの声色が少し暗く聞こえた。
そういえば、さっきから元気がないような気がする。
彼の様子に違和感を抱きつつ、気がつくと自宅前に到着していた。
……もうちょっと一緒にいたかったな。
小さくため息をついて、剣城くんの方へと振り返る。
「送ってくれてありがとう。また月曜日でね!」
「うん、また月曜日」
剣城くんに向かって手を振った後、玄関のドアが閉まる直前で。
彼が切なそうな表情を浮かべていたなんて、この時の私は1ミリも知らない───。