そんな私とは住む世界が違うような人が私のことを好きだなんて、にわかには信じがたい話で、その時は受け流す程度だったのだが───…。


『盾石』


例の噂が1週間後くらいの頃だった。

誰かに呼ばれて振り返ると、そこには槍田くんがほんのりと頬を赤らめて立っていたのだ。


『えっと、その…おはよ!』

『お、おはよ…』


挨拶を返すと彼は嬉しそうな表情で教室へと入って行った。

そして私たちの会話を見ていた周囲の男子生徒たちが『ヒューヒュー!!』と冷やかしてきて、恥ずかしさのあまり逃げるように立ち去った。


違う。絶対に違う。
槍田くんが私のこと好きとか、ありえない。


そう自分に言い聞かせつつも、当時14歳の私は恋愛経験が全くなかったため(今もないけども)、なんとなく、ほんの少しだけ槍田くんのことを気になり始めたのだ。


それからというもの、次の日から付き合ってもいないのに、何故か槍田の嫁だの彼女だの、『槍田の女』という称号をつけられ、揶揄われたり、騒がれたりと散々な日々を送った。