俺はただ、話を聞くことしかできなくて、何の役にも立たなかった。

悲しい出来事を思い出させてしまった。


「……彼女の事故とか、知っていたのに、何にも考えてやれなかった……」


真っ青な顔をした盾石が脳裏に浮かび、ぎゅっと、爪が食い込むくらいに拳を握りしめる。

足下に視線を落とし、どんな言葉でも受け止めようと覚悟を決めていたら、

「絢人くん」

優しい声で名前を呼ばれた。

恐る恐る顔を上げると、今度は寂しげに微笑んでいる雷太さんと目が合った。


「ありがとう。柚奈のこと、ずっと想ってくれて……」


雷太さんは、話を続ける。


「……柚奈はね、母さんが目の前で死んでしまって、精神的ショックでたまに当時の事故の出来事がフラッシュバックしてしまうんだ。その拍子によく体調を崩すことが多くてね。ひどい時は、今日みたいに吐き気を催したり、息が苦しくなったり…。あの子には、沢山辛い思いばかりさせて、僕たちはただ側にいてやることしかできないけれど……きっと、心の支えにはなれると思うから、これからも仲良くしてやってほしい」

「…っ、はい」

「…あはは、なんかごめんね。おじさんがベラベラ喋って、無理やり頼むような言い方しちゃった……」

「…そんなこと、ないです」