去年、柚希がこんなことを言っていた。

──"槍田は、少女漫画に登場するヒーローみたいな容姿をしている"と……。

そして俺は、主人公(ヒロイン)に片想いを抱くライバル役───見た目が当て馬男子にそっくりだと揶揄われたっけ。


「あやと!!」


噂をすれば、柚希の声がした。

振り向くと、柚希と盾石たちの父親が慌ててこちらにやって来るのが見えた。


「……絢人(あやと)くん、えっと、こ、こんにちは…!」

「お久しぶりです、雷太(らいた)さん」


盾石たちの父親───雷太さんが照れくさそうに話しかけてくれたので、俺は頭を下げて挨拶をする。


「ゆずなの体調は?吐いたって聞いたけど……」

「今はもう大丈夫。顔色も大分マシになった」


柚希は「そっか…」と、安堵のため息を零した。


「おーい、ゆずな〜。帰るぞ〜」


柚希の声で盾石がゆっくりと瞼を開ける。


「……あれ、柚希」

「父さんが車で迎えに来てくれたんだよ。おまえ、歩ける?無理だったらおんぶしてやろうか?」

「……一人で大丈夫」


盾石は、柚希の手を掴んで立ち上がった。

そして、一歩足を踏み出そうとした時、くるりと俺の方へと振り返る。