「今までの思い出、ほとんど忘れちゃった……」


これ以上堪えられなくなって、ぼろぼろと涙が流れた。


「……自分の中ですごく大切な思い出もあったのに、何にも思い出せないの。友達と遊んだことも、家族との何気ない時間も全部消えちゃった……」


視界がぼやけて、剣城くんがどんな表情で聞いているのかもわからない。


「……もう、嫌なんだ。大好きな人たちとの思い出を忘れるくらいなら、いっそ私も──」

「だめだよ、盾石」


私が言いかけた途中で剣城くんが遮った。

そっと私の手を包み込んで、言葉を紡ぐ。


「自分を責めることなんてないんだよ。忘れてしまったなら、無理に思い出す必要もない」


剣城くんの握る手に少し力がこもった。


「もっと自分自身のこと、大切にしてよ。『自分もいなくなったら…』なんて、言わないで」


大粒の涙が零れ落ちる。

切なげな瞳が私を捉え、「ごめん…」と、咄嗟に謝った。


「…何で盾石が謝んの?」

「……っ、つるぎくん、が、なきそうなかお、してた……」


そう言うと、剣城くんは物悲しげに微笑んで。


「泣いてる人に『泣きそうな顔』とか言われたくない」

「……うぶっ」