「……2人を残すなんて、無理だよ。柚希もお父さんも、どこか抜けていて頼りないし、危なっかしいし、私が支えてなくちゃ……」
私がいないと2人とも本当にダメなんだ。
だから、退院してからは、できるだけ笑顔でいようと決めた。
弱音を吐かないように、出来るだけ心配をかけないように───。
今も生きていることに、すごく幸せを感じている。
小学校、中学校、高校と、色んな人たちに出会えた。
ももちゃんと友達になって、高校からはクラスメイトたちと仲良くなって、剣城くんとも関わるようになって、素敵な思い出もたくさんできた。
───だけど、神様は、私が助かった代わりに代償としてあるモノを奪った。
「……剣城くん、私ね」
涙が一気に溢れ出す。
それと同時に声も震えてくる。
「事故にあった時、頭を強く打ったらしくて、その後遺症で記憶が曖昧になっちゃってさ……」
自分のこと、家族や友人の名前や存在はしっかりわかっているのに…。
覚えている記憶は、家族皆でひまわり園に行ったこと、お母さんの大好きなお花、そして、徐々に冷たくなっていくお母さんの体温。
それ以外の記憶、全てと言ってもいいほどに───…。


