剣城くんは押し強い



「盾石?」

「っ!あっ、な、何…!?」

「…いや、なんかボーッとしてたから……」


私は笑顔を作って「何でもないよ」と答える。

ひまわりの花束が入っている紙袋の取っ手部分をぎゅっと握りしめた。


少し喉の辺りが苦しいような気がする。





それから、家に向かって歩いていた途中、視線の先に人だかりができているのが見えた。

横断歩道の所で、大勢の人が集まっており、更にその奥では、赤色灯の赤い斑模様の光が建物や人々を照らしている。


「事故だって…」

「小さい女の子とその子のお母さんが車に撥ねられたって……」


嫌な汗が背中を伝った。


「…どっか体調悪い?顔、真っ青だけど」


心配そうに覗き込んでくる剣城くんに、再度作り笑いを浮かべて「大丈夫」と答える。


「…本当に、何でもない、から……」


重い足取りで事故らしき現場を通り過ぎようとした時だった───。


ふと、視線を移すと、ちょうど誰かがストレッチャーに乗せられて救急車の中へと搬送されていく光景を目撃してしまう。

その瞬間、胃液が体内の奥底から逆流してくるような感覚に襲われた。


「…っ、ごめっ…わたし……」


息苦しさに耐えられなくなった私は、剣城くんを置いて、その場から逃げるように走り出す。