桜が満開の季節。
暖かい春風に乗って桜の花弁が宙に舞う。
放課後、オレンジ色の夕日が窓から差し込んで、カーテンが緩やかな風にそよいでいた。
「───でさ〜、聞いてよ盾石」
そんな中、日直に当たっていた私は、日誌を書いている最中のこと、目の前に座っている男が話しかけてきたのだ。
「最近じーちゃんが犬飼い始めたんだけど、その犬、すっごい人懐っこくてめちゃくちゃ可愛かったんだよ」
「…へー」
「犬種はね、黒柴で……そうそう、盾石の綺麗な黒髪と同じ色してるんだよね〜」
目を細め、頬杖をつきながらもう片方の手で私の髪を触って遊び出す。
先程と同じように「…へー」と感情のこもっていない相槌を打った。
なるべく顔を上げないようにして、日誌の空欄を上から順番に書き込んでいく。
「…なあ、盾石聞いてる?」
薄くて形のいい唇がゆっくりと言葉を紡ぐ。