話が落ち着いたところで俺達は馬車に乗り込んだ。
走り出した馬車から遠くなっていく新邸を見送った。
「さて、次は領地に行かねばな」
「そうですね。一か月滞在して挨拶と引継ぎと諸々の整理。忙しくなりそうですね」
「第三王子殿下が来てくださるのは十日後だったか」
父の顔が引き締まって領主の顔になった。
「ですね。それまでに代表の者達とも打ち合わせておかないといけませんね。確か婚約者であるブルーバーグ侯爵令嬢もご一緒でしたよね。粗相のないようにしなければ、何度もチェント男爵家の失態を見せられませんからね」
「その通りだ」
王子殿下方の目の前で繰り広げられたリリアの愚行で、我々の印象は最悪だろう。ゆえに細心の注意を払ってお出迎えせねばならないだろう。そう思うと身が引き締まる思いがした。
領主代理が決まったのは先週の事。王都での残務処理もあらかた終わり、領地へ報告に行かねばと思っていた矢先だった。まさか、領主代理が第三王子殿下だとは想像もしていなかったが。
我々の移住前に王子殿下に引継ぎ、領地経営が支障なく行われるようにとの王家の配慮だと思われる。王子殿下が領主代理となれば領民も憂いなく安心して生活できるだろう。



