「ああ。ホールに聖母が天使を抱いている刺繍画に目を留めてじっと眺めていたそうだ。静かに涙を流しながら。その後から刺繍を始めたらしい」
「そうなのですね。あのお嬢様が……刺繍針は凶器だと言って道具箱にさえ触れなかったあのお嬢様が……」
マギーはなにやら感激している。目頭を押さえた指先に光るものが見えた。
そこまで感極まるものなのか。
凶器と言っているのは知らなかったが、指に包帯と聞くとあながち嘘ではないのかもしれない。
宗教画を題材としたそれは教会にも必ずといっていいほど目にする有名な絵画を模したもの。
俺達も見せてもらったが絵画と見間違うほどよくできた心が洗われるような刺繍画だった。繊細で豊かな色使い、緻密で巧な技術。どれをとっても細部までこだわり手の込んだものだった。
リリアが何を思ったのか、何に感動したのかはわからないが、心を突き動かす何かが芽生えたのだろう。
どちらかというと怠惰な性格のリリアが夢中になるものを見つけたのなら、それはそれでいいことだ。
刺繍師という職業もあるようで生計を立てることも可能だと院長に教えてもらった。
一心不乱に刺繍をしているリリアの姿が目に浮かんだ。



